夢だけど夢じゃなかった夢のような話

その時私はとても気分がよかった。

「出先から直帰」という社会人ご褒美ワードに酔いしれていたのもあるが、
気難しいお客様に相当ご満足いただけたという達成感に満ち溢れていて、箔を付けるためについて来てくれた上司にその興奮と感動を述べている時だった。

私は直帰で上司は会社に戻るところで、ほんとうなら別れる直前まで上司を労いながらよいしょしながら過ごすべきだったのだ。




でも突然私は黙り込んだ。

見慣れた上司よりももっと見慣れた、茶色の御髪。


上司との会話もそこそこに、私はすらっとしているわりに可愛らしい格好をした男性をガン見した。


いやあまさか、こんなところにいるわけない。そう思った。
階段で横並びになる。
黒いキャップから覗く綺麗な茶色の髪の毛、長い睫毛、スッと通った鼻筋。


男性は周りの雰囲気からとても浮いていた。
でも周りと同じスピードで階段を降り、普通の人と同じように改札を通っていく。

大きな赤い手提げから赤チェックの長財布を取り出し、
ピッとして足早に人混みをすり抜けていく。

私ははやる気持ちを抑えながら、
というか物理的に興奮で振動しながら彼を追った。

灰色の大きなヘッドホンを付け、
そこから伸びるコードとつながっているスマホを何やら一生懸命見ている。

すると道を間違えたようで、くるりと踵を返し真反対の方向へ進んでいき、そして消えてしまった。



私は我に返り、世界も元に戻った。


そんな主人公デイの話。